英語の散歩道1ー正しい英語
「正しい英語」とは
英語の4技能について叫ばれていますが、speakingについては、まずは話してみることが大切でしょう。
人間の脳には一千億個のニューロンがあり、各ニューロンを接続する神経回路の数は百兆もあると言われています。日頃使っていない言葉をたまに使おうとしても、その言葉を発するニューロンが発火しないのです。たとえ各ニューロンが発火しても、「言いたいこと、伝えたいこと」を表現するための接続が行われないのです。つまり、神経回路がつながらないのです。
人間の脳は使わなければ休止しています(lie dormant)。熟睡している人をたたき起こして、いきなり「・・・について考えろ!」と言っても無理でしょ。すっかり眠っているニューロンをたたき起こして、「あのニューロンと、あのニューロンに至急連絡を取ってくれ」と言っても、すぐに行動を起こしてくれません。
ある程度短文を覚えて、あとはどんどん使ってみることが大切です。ただ問題は、使う場がないということでしょう。留学したり、ネイティブの親、親類、友人、同僚がいるケースとは違って、ほとんどの人はその機会がありません。英語カフェに通うにも近くにはない。英会話学校にいくほどでもないし、特に年配のひとは若い人たちに交じって、というのも気が引ける。結局、何年もspeakingに必要な脳の部位に眠ってもらっているわけです。しかし、今は、ネットを使って会話するシステムも提供されています。正しい英語にはこだわらず、まずは話して、脳を活性化させましょう(stimulate the brain、keep the brain alive)。
前置きが長くなりましたが、「正しい英語を話す」というときの「正しい」という語について考えていきましょう。
さっと浮かぶ簡単な形容詞でもいくつかあります。correct、right、proper、accurate、exact、appropriate、good、suitable、preciseなど。
どれがいいでしょうか。
たとえば、「英作文の誤りを正す」は
correct mistakes(errors) in English composition(writing)
のように、correctという動詞を使います。
従って、形容詞も(あるいは、副詞も)
speak correct English
speak English correctly
use correct English
speak in correct English
のように、correctで表現すればいいでしょう。
日本語をみていきましょう。
空所に入れる語として、次の選択肢のどれが最も適切でしょうか。
1( )日本語を話す。
- 正しい イ)正確な ウ)適切な エ)的確な オ)よい
カ)ふさわしい キ)正当な ク)間違いのない
「最も」と言われれば、おそらく、誰もがアの「正しい」と答えるでしょう。
では、他の選択肢はどうでしょう。
イ)「正確な日本語」
おかしくはないが、あまり使わないか、少なくとも「正しい日本語」に比べて、少しかたいような・・・といったところでしょうか。明確に数値化されているイメージなので、「正確な時間」という使い方ならわかるが・・・
ウ)「適切な日本語」
これもおかしくはない。ただ、「正しい日本語」とは意味が違ってくる。「正しい日本語」は、「文法や語法の間違いがない日本語」という意味。一方、「適切な日本語」は、「敬語」のように、「状況にふさわしい日本語」という意味になるか、「当を得た、的を射た表現」のように「状況にぴったりの表現」という意味になる。まあ、こんなところでしょうか。
エ)「的確な日本語」
んー・・・おかしいような、おかしくないような、少なくともあまり使わないかな・・・「当を得た、的を射た表現」のように「状況にぴったりの表現」という意味を表すように思われるが、それなら「適切な日本語」というほうがいいような・・・そんなところでしょうか。
オ)「よい日本語」
これもおかしくはないが、くだけ過ぎてあいまいな印象を受けるような・・・。
カ)「ふさわしい日本語」
おかしくはないが、「何にふさわしいのか」わからないので、「何に」の部分をはっきり言うか書く必要がある。「この場にふさわしい」のように。
キ)「正当な日本語」
あまり使わない。少なくとも、かたいし、どんな基準をもって「正当」と言っているのかわかりません。
ク)「間違いのない日本語」
別におかしくはない。ただ、「ただしい」の4文字ですむケースで、「まちがいのない」の7文字をわざわざ使わない。
どうでしょう。母語である日本語でもこれだけ曖昧なのです。仮に日本語を大変よく勉強している外国人から、アからクまでの表現を示されて、「どれが正しいですか?また、納得できる理由を教えてください。日本語を習得したいのです」と言われたらどうでしょうか。面倒くさいでしょ。だいたいこちらも感覚でしゃべっているのです。いちいち検討していたらしゃべられません。
「ウは敬語のような表現かな。クはいいけど長い。オはあいまいだけど、通じるから使いたければ使えば。いろいろあるけど、アにしておけば。誰も文句を言わないから、おすすめはア。これ以上知りたければ、言語学者にでも質問して」
従って、英語においても、他の語はいろいろ面倒くさいので「correctを使う」でいいでしょう。日本語にしろ、英語にしろ、言葉にはコロケーション(語の自然なつながり)というものがあります。これは、その言葉が使われている国や地域で、親や先生のような大人、友人や知人、メディアの影響などによって、自然と身につけていくものです。それがネイティブ感覚というもので、理屈では説明しきれないところがあります。
ですから、日本語では「正しい日本語」、英語ではcorrect English。これでいきましょう。
しかし、これで終わればこのブログの意味がなくなってしまうので、一応検討します。ただ、有益な検討ではないので、面倒だと思う人は読まなくて結構です。書いている本人が言うのもおかしなことですが、あまり有益だとは思いません。言語学を目指している人は別として。
まずは一番身近なgoodから。
speak good English
おかしくはないと思います。ただ、漠然としている感は否定できません。意見が分かれるでしょう。オのケースと同じです。
speak right English
コロケーションが不自然であることに加えて、rightは「道徳的に正しい、判断や意見・基準が間違いのない、説明や答えなどが正しい、人や場所が適切な」という意味です。ただ、CODにright use of wordsという例文が載っています。right use of English words「英単語の正しい使い方」のように表現できるでしょうが、rightをEnglishに直接修飾する使い方は避けるほうが賢明でしょう。
speak proper English
CODにin the proper sense of wordsという例文が載っていますし、意見が分かれるでしょう。「適切な」という意味で、ウのケースに当たります。
speak exact English
「精密な英語」という意味になり、コロケーションが不自然です。
speak accurate English
「的確で厳密な英語」という意味になり、やはり、コロケーションが不自然です。エのケースに当たります。accurateはCODによる定義付けin exact conformity with a standardやOALDの定義付けcareful and exactからわかるように、「厳密な基準があって、それにぴったり沿っている」というイメージなので、「厳密な言語ルールに合った厳格な英語」のような印象を受けます。
speak appropriate English
「適切な英語」となり、ウのケースに近いでしょう。
従って、
English appropriate for(to) the occasion
「その場にふさわしい英語」
という使い方をすれば問題ないと思います。
しかし、「文法・語法が正しい英語」という意味での「正しい英語」とは異なるので、「(一般的な意味での)正しい英語を話す(使う)」と言うときはappropriateを使わないほうがいいでしょう。
いくつかみてきましたが、結論として、「正しい英語を話す(使う)」の「正しい」はcorrectでいきましょう。
では、また。