教える英文法7ー比較級(no 比較級 than)

        no 比較級 thanの構文

1 He is no better than a beggar.

  「彼は浮浪車同然だ

 

2 He has no more than 100 yen.

  「彼は100円しか持っていない」

  = He has only 100 yen.

 

3 He has no less than 10,000 yen.

  「彼は1万円持っている」

  = He has as much as 10.000 yen.

 

4 A whale is no more a fish than a horse (is).

  = A whale is not a fish any more than a horse (is).

  「クジラは馬と同様ではない

 

5 A whale is no less a mammal than a horse (is).

  「クジラは馬と同様哺乳動物である

 

                    《問題提起》

 高校で学習する比較構文の代表例の一つでしょう。しかし、ここでつまずく生徒もたくさんいます。以前の参考書に比べると、ある程度の解説がされているようですが、それでも英語が得意でない生徒にとっては拒否反応を起こしてしまいそうになる構文です。その主な原因は、1から5までの英文を分けて書かれているためだと考えられます。

 ただでも英語が好きでないのに、単語が微妙に違うことによって意味が異なってくる英文を5つも並べられると、目を背けたくなる気持ちもわかります。

 たしかに、いくつかに分けて説明するのは妥当ではありますが、考え方は一つしかありません。つまり、ワンパターン構文なのです。すべての英文に共通するたった一つの考え方を説明せずに複数のパターンを見せられるので、学習者は気持ちが萎(な)えてしまうのです。

 個別の英文を解説する前に、まず、すべてに共通する一つの、その意味で、根底にある考え方を説明すればいいのです。

 

 ただ、どこまで掘り下げて説明するかは、学習者である生徒の実力によって異なってきます。

 前述のように、最近の参考書は比較的解説も充実してきて、次のように説明されているものもあると思います。

 

 「いかに~でないのか、あるいは、~であるのかの例をthan以下で述べるので、『~と同様に』という意味になる。極端に言えば、イコールの関係が成り立つ」

 

 たしかにその通りです。

 しかし、次の英文はどうでしょう。

 

  Please hand in your paper no later than Friday next week.

  「遅くとも来週の金曜日にはレポートを提出してください」

 

 この場合、来週の金曜までにレポートを出せばいいのだから、金曜日とイコールの関係は成り立っていません。水曜日や木曜に出してもいいわけですから。このへんの整合性をどう解決するのかを、考える必要があるでしょう。

 そもそも受験英語界で言われるように、常に「イコールの関係」にあるのでしょうか。

 仮に「thanを『~と同様に』と解釈」しても、次の疑問にどう答えればいいのでしょうか。

 

  He is no taller than you (are).

  「彼はあなたと同様背が高くない」

 

 1 彼とあなたの身長は同じでどちらも150センチで、どちらも背が高くない。

 2 彼は140センチで、あなたは150センチで、身長は違うがどちらも背が高くない。

 

 「~と同様に」といっても、1と2のケースがあります。どちらのケースが正しいのでしょうか。

 

 上の2つの問題点をいきなり説明するかどうかは学習者の力を見て判断することになるでしょうが、少なくとも教える側の人間は、2つの問題点を認識し、それに対する解答を持っていなければなりません。

 

 さて、以上の点を踏まえて、一通り説明をした後も、必ず触れておかなければいけない注意点がいくつかあります。その注意点には、初学者や理解不足の学習者がしばしば陥ってしまう大切なことが含まれています。

 そのうちの一つは、クジラ構文に関係しています。

 最近の傾向として、クジラ構文の例文に名称の由来となった英文を使わない参考書や教科書が増えたような気がします。実際に教える場においても、その英文を避けているようにも思えます。

 例えば

  I was no more surprised than he was.

  「私は彼と同様まったく驚かなかった」

という具合です。

 あまりにも有名になった英文を使うことに若干の抵抗を感じているのかもしれません。

 しかし、これでは学習者が陥りやすいある重大な間違いに気づかないのです。クジラ例文を使うと、初学者でもその間違いに容易に気づきます。クジラ例文を使って説明することを勧めます。

 

        no 比較級 than と not 比較級 than

1 He has no more than 1,000 yen.

  「彼の所持金はたった千円だ」

 

   「彼の所持金 = 千円」で、少ないことを強調(「少ない」という感情が入っている)

 

  He has not more than 1,000 yen.

  「彼の所持金は千円より多いことはない」

→「彼の所持金は多くとも(せいぜい)千円だ」

 

   「彼の所持金 千円」で、所持金の範囲を示しているだけ(「少ない」という感情は入っていない)

 

2 He has no less than 10,000 yen.

  「彼は1万円持っている」

 

   「彼の所持金 = 1万円」で、多いことを強調(「多い」という感情が入っている)

 

  He has not less than 10,000 yen.

  「彼女の所持金は1万円より少ないことはない

→「彼は少なくとも1万円は持っている」

 

   「彼の所持金 1万円」で、所持金の範囲を示しているだけ(「多い」という感情は入っていない)

 

        《問題提起》

 一般に

 

  A no more than B

  「AはBしか

  A = Bで、「少ない」という否定的な感情が入っている

 

  A not more than B

  「Aは多くとも(せいぜい)B」

  A ≦ Bで、ただAの範囲を示すだけで、否定的な感情は入っていない

 

と説明されます。

 しかし、

 

  He has not more than 1,000 yen.

  「彼の所持金はせいぜい千円だ」

 

と読めば、「彼はそれほどお金を持っていない」(少ない)という否定的な印象を与えます。

 実際、日本語の辞書は、「せいぜい」の定義の一部に「たかだか」という語を当てはめています。「たかだか」とは、「ある数や量を超えない」という意味に加えて「少ない」という意味も含まれています。

 

 そもそもno more thanとnot more thanは常に厳密に区別れているのでしょうか。

 

 lessも同じです。

 

  He has not less than 10,000 yen.

  「彼は少なくとも1万円持っている」

 

と読めば、「彼は結構お金を持ち合わせている」(多い)という感情がこもっています。

 

 次の英文についても同じことが言えます。

 

  He was no more surprised than she was.

  と

  He was not more surprised than she was.

 

  He was no less surprised than she was.

  と

  He was not less surprised than she was.

 

 学習者、特に、初学者に対しては、単純化して教えるべきであることはたしかです。しかし、それとは別に、教える側はこうした疑問に対する自分なりの答えを持っていなければいけないと考えます。

 

 

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