英語の散歩道6ー古風な人間

 重なる語

 明けましておめでとうございます。

 コロナ一色の一年が明けましたが、新年(2021年)はコロナが最大の話題にならない年であることを願って止みません。

 最近、年賀の挨拶をラインで受け取ることが多くなりましたが、ほとんどが、

 

  新年明けましておめでとうございます。

 

でした。

 ご存じの方も多いかと思いますが、「明けまして」の「明ける」は「夜明け」の「明ける」と同じく、「一定の期間が終わる」という意味です。

 「新年が明ける」と、さらに次の年になってしまいます。

 正確には、

 

  新年、おめでとうございます。

  明けましておめでとうございます。

 

のどちらかです。

 ただ、

 

  新年明けましておめでとうございます。

 

という文言は一定の(ひょっとすれば、相当な)市民権を得た表現かもしれません。

 話し手は

 

  新年になり、旧年が明けて、おめでとうございます。

 

という気持ちで使っているのだと思います。

 その証拠に、「新年」と言って、そこで一呼吸置く人が多いように思われます。本来は正しくない表現でも、ずっと使われ続けると慣用的表現として認知されます。

 ただ、せめて、

 

  新年明けましておめでとうございます。

 

と、句読点を打つのはどうでしょうか。

 メールやラインは、話を文面で表現しているようなものです。その意味では、文語と口語の間のグレーゾーンに属しているかもしれません。

 ですから、

 

  新年明けましておめでとうございます。

 

でもいいと思います。

 しかし、年賀状となると、やはり問題でしょう。同じ意味の言葉を重ねることは文語では避けることがルールだからです。

 少し話は違いますが、電話を受け取った人が

 

  「もしもし」

 

というのも、本来はおかしなことです。

 「もしもし」の「もし」は「(これから用件を)申し上げる」が縮まって「もし」になった語です。「用件を申し上げる」のは電話を掛けた側であって、電話を受け取った側がいきなり「これから用件を話す」というのもおかしな話です。

 ただ、この言葉も慣用的な使い方として市民権を得ているかもしれません。英語で言うと、

 

  Hello.

 

みたいなものでしょう-ちなみに、helloは通常電話を受ける側が言うのが普通です。

 話を戻しますが、同じ意味の言葉を重ねるのは本来は避けるべきですが、市民権を得た表現は英語にもあります。

 その代表格の一つは

 

  cannot help but ~

 

です。

 

  cannot help ~ing

   helpは「~を避ける」( = avoid )という意味で、「~することを避けることができない」→「~せざるをえない / どうしても~してしまう」となります。

  cannot but

   butは「~以外の」という意味で、cannot (do anything) but ~「~以外のことはできない」→「~せざるをえない / どうしても~してしまう」となります。

 

 このように2つの表現は同じことを意味しています。

 ところが、2つの有名な表現があると合体してしまうことがあります。それが、

 

  cannot help but

 

 昔のことですが、仕事上の大先輩がこの表現を指して、

 

 「教養のないアメリカ人が・・・」

 

と言ったことがあります。

 しかし、かなり教養のあるアメリカ人も書き言葉として使っていましたし、言葉は変わっていくものです。

 ただ、新年の挨拶は、「新年」と「明けまして」を一緒に使うのであれば、せめて、

 

  新年明けましておめでとうございます。

 

と書いてほしいと思っている僕は、old-fashioned / (too) conservativeな人間でしょうか。

 

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