人類vsAI ChatGPTへの挑戦状(case1 #1)
「都合がいい」 case1 #1
仕事柄いろんな人から質問を受けることが多いのですが、次の問題もそのうちの一つです。
2023年、近大医学部で出題された空所補充問題です。
“I’d like to arrange the next meeting. Do any of the following dates ( ) for you?”
ア best イ suit ウ work エ convenient
日本語に訳すと、「次回の会議を手配したいと思います。次の日付のどれがあなたに都合がいいですか?」となります。
まず、どこに問題点があるのか、整理しておきましょう。
Doが使われているので、動詞が入ることは明らかです。アのbestと、エのconvenientは、正解の候補から外れます。bestにも動詞の意味はあるのですが、「都合がいい」という意味ではないので、ここでは考慮する必要はありません。従って、イのsuit、ウのworkのどちらかが正解ということになります。
イのsuitですが、例えば、「日曜日が私にとって都合がいい」と言いたければ、
Sunday suits me fine.
Sunday suits me well.
Sunday suits me best.
と表現します。
つまり、suitの後に前置詞のforは付けません。
これを文法的に説明すると、suitは他動詞だから、前置詞なしに動詞の対象となる語-これを目的語と呼んでいます-をもってきます。従って、( )とyouの間に前置詞forは不要ということになります。一般に、fine、well、bestという語を伴うことが多いのですが、そうした形容詞や副詞を伴わずに使うときもあるので、結局、前置詞forがあることが、suitが正解でないことを示しているのです。
workはどうでしょう。
後に前置詞を伴わずに目的語をもってくる動詞を他動詞と定義しましたが、それに対して、前置詞を伴って動詞の対象となる目的語を続ける動詞を自動詞と呼んでいます。つまり、自動詞は、目的語を伴わずに使われ、目的語を続かせる場合は前置詞が必要になるということです。数多くの動詞が、他動詞、自動詞の両方の用法をもっています。workも例外ではありません。しかし、「人にとって都合がいい」という意味のときは、workを自動詞で用いて、例えば、「日曜日は私にとって都合がいい」と言いたければ、
Sunday works for me.
と表現します。
従って、問題の正解は、ウのworkということになります。
さて、実は、ここからが問題なのですが、
「都合がいい」という意味のsuitは他動詞でforが不要
と述べましたが、「都合がいい」というsuitに自動詞の意味はないのでしょうか。
ジーニャス英和辞典に、自動詞の用例があります。
「通例wellを伴う」という条件付きではありますが、「都合がいい」という意味のsuitに自動詞の使い方があるのです。
Friday will suit well.
「金曜日が、都合がいい」
という用例が載っていました。
実際、「何曜日が最も都合がいいですか?」という意味で
What day of the week suits best?
と言ったりします。
通例、自動詞のsuitはwellやbestを伴うので、そういう副詞があるに越したことはありません。
しかし、絶対に必要か、と言われると、そうとも言い切れません、そこが言葉の曖昧なところです。
仮に自動詞のsuitに副詞を伴わない表現を認めれば、「私にとって」を意味するfor meを付けて、
Sunday suits for me.
「日曜日が私には都合がいい」
という表現が成立することになります。
前述の問題の解答は、イのsuitも正解の可能性が出てくるのです。
wellやbestがないので自然な英語表現ではないと主張できますが、理屈上は成り立ちます。
もちろん、「理屈より慣用が優先される」べきなので、suitのこのような使い方は通常使われる表現としては妥当ではない、ということになります。
Practice takes precedence over theory.
「理屈より慣用が優先される」
です。
別の言い方をすれば、
In theory, yes, but in practice, the expression is not a natural and idiomatic one, and thus it is not commonly used in every conversation.
「理屈の上ではOKだが、実際には、その表現は自然で慣用的なものではなく、従って、日常会話の中で普通に使われるものではない」
ということになります。
前置詞なしで使う表現にわざわざforを付けて使う必要はないというわけです。「私にとって都合がいい」という意味でsuit for meは登場する余地がないとも言えます。
次回は、以上の点を踏まえて、ChatGPTとのやり取りを通じてもう少し議論を深めたいと思います。
では、今日はこのへんで。
次回は、ChatGPTとのやり取りを報告します。