教える英文法19ー最強の剣法 / 拳法

最強の剣法 / 拳法

 

 道場剣法と実戦剣法、あるいは、道場拳法と実戦拳法のどちらが強いか、について考えてみましょう。

 話を単純化するため、

 

 道場剣法 / 拳法は、道場の中だけで身に付けたもの

 実戦剣法 / 拳法は、基本的な型などはまったく知らないもの

 

とします。

 実際には、戦う者の精神的なものも大きく左右するでしょうが、ここでは両者の精神力などは完全に等しいとします。というのは、ある条件で対比する場合、他の条件は同じと考えなければ対比すること自体が無意味になってしまうからです。ただし、戦う場はあくまで実戦的な場であるので、地面に起伏があったり、木立があったり、池や川もあるとします。それ以外の条件-特に、精神面など-を同じにしたうえで、あらためて、

 

 道場剣法 / 拳法と実戦剣法 / 拳法のどちらが強いでしょうか。

 

 もちろん、実際に戦ってみなければわかりません。

 

 ただ、こういうこともあるはずです。

 実際に戦う場は、道場のように、足場は平坦ではなく、周囲には何があるのかわかりません。強烈な風雨にさらされるかもしれません。砂埃も激しく舞うでしょう。

 実戦剣法 / 拳法家は、戦う場の悪条件を自分にとって有利にもっていく術を心得ているかもしれません。道場剣法 / 拳法家から見て何より厄介なのは、相手は今まで戦ってきた者とは違って、日頃学んだ型とはまったく異なる、予測不可能な技を繰り出してくるかもしれません。

 

 二人の決着の如何は置いておきましょう。

 さて、英語に話を戻しましょう。当ブログはあくまで英語関係の内容をつづったブログなので。

 もちろん、剣法 / 拳法の話を英語の話に単純に置き換えることはできないかもしれません。

 しかし、次のようなこともありえます。

 A:基本的な型(文法・語法)はある程度習得している者

 B:基本的な型(文法・語法)などおかまいなしに、ただやみくもに話し、その意味では実戦的な場を踏んでいる者

 

A 基本的な型(文法・語法)も身に付けているが、実際に、読んだり、書いたり(表現したり)、話したり(表現したり)するときに、つまってしまうことがある。

 

B 基本的な型(文法・語法)も身に付けていないので、読んだり、書いたりはできないが、話すことは単語を並べて相手になんとか通じる。

 

 事例1

 準動詞で触れる文法に次の項目があります。

 

 ⅰ a sleeping baby

   「眠っている赤ちゃん」

   sleepingのingは現在分詞で「~している」という意味

 ⅱ a sleeping car

   「眠るための車両」→「寝台車」

   sleepingのing動名詞で「~するための」という意味

 

 Aはこの文法を習得済みだが、Bはまったく知らない。

 

 今度は、実戦の場に移って、

 

  「生活環境を変えるために田舎に引っ越した」

 

という文を英語で表現するケースを考えてみましょう。

 

 「生活環境」をどう表現すればいいのか、Aは習得した文法をあれこれ駆使して考えるがうまく表現できない。しかし、Bはこれまでの経験が生きて、

 

  my(our) living environment

 

と表現できた。

 今度は、別の表現

 

  「不景気なので生活費を切り詰めてなんとかやっている」

 

を、英語で表現しなければならなくなったとしましょう。

 今度は、AもBも「生活費」を表現できなかった。

 

 第一のケース「生活環境・・・」で、ある程度文法を習得しているAがどうして「生活環境」を表現できなかったのか。

 それは、

 

 基本的な型(教科書や参考書で身に付けた知識)を実戦の場に生かす術

 

を習得していなかったからです。

 具体的には、

 

 ⅱ a sleeping car

   「眠るための車両」→「寝台車」

   sleepingのing動名詞で「~するための」という意味

 

という知識を学んだのに、実戦の場に生かせなかったからです。

 文法書を読み漁って知識はあるのに、それを実戦の場で生かせない文法オタク( a grammar nerd / a grammar maniac )では、宝の持ち腐れでしょう。

 「生活環境」は「生活するための環境」だから、

 

  my(our) living environment

 

と表現すればいいのです

  • 関係詞の知識があれば

 the environment in which to live

  とも表現できるでしょう。

 

 Aは「生活環境」を表現できなかった。一方、Bは表現できた。だからといって、この段階で「Bが優れている」と判断するのは時期尚早でしょう( It’d be premature to ~)。なぜなら、Bは「生活費」を表現できなかったからです。

 仮にAが

 

 基本的な型(教科書や参考書で身に付けた知識)を実戦の場に生かす術

 

を身に付けていれば、「生活費」とは「自分が生活するための費用」だから、

 

  my(our) living expenses

  あるいは

  my(our) living costs

 

と表現できたでしょう。

  *costsを使った場合、所有格がなければ、the costs of living = living costs「社会における(個人の)平均的な生活費」と受け取ってしまう人もいるようです。

   これは、

 cost-of-living index「消費者物価指数」(ジーニアス英和辞典)

the cost-of-living index(OALD

   という表現の影響を受けているのかもしれません。

  なお、「切り詰める」は

   cut down on ~

   cut back on ~

   reduce ~

  などの語句を使って、

   cut down on my(our) living expenses

  と表現できますが、my living expensesが浮かばなければ

 

tighten one’s purse strings

「財布のひもを閉める」

 

cut down on money necessary for living

cut down on money necessary to live

   

「贅沢しない」と考えれば

be not extravagant

lead(live) a frugal life

lead a frugal existence (existence = life)

live frugally

not lead(live) a luxurious life

 

「節約する」という慣用表現を使えば

practice economy(economies)

make economies

ここでのeconomyは「経済」ではなく「節約(すること)」という意味です

   

といった表現が考えられます。

 

 話を本題に戻して、別の例を取り上げましょう。

 

 事例2

 拙著「教える英文法-比較表現」の“他の比較表現”の4“「~よりも」にthanの代わりにtoを使う表現”の《一般的説明》-当ブログ1月19日掲載-に

 

  be inferior to

  「~よりも劣っている

 

という表現が書かれています。

 同じ仲間に

 

  be second to

  「~と比べて2番目である

 

があり

 

  be second to none

  「誰と比べても2番目ではなく、1番だ」

  = be inferior to none

  「誰と比べても劣っていない」

 

という、有名な表現があります。

 《一般的説明》-ブログ掲載事項-は、一般に教科書や参考書に書かれている知識であるという意味では、道場剣法 / 拳法に当たります-think better ofとthink the better ofの違い、のように、あまり扱われていないものもありますが。

 

 道場剣法 / 拳法を学んだ者が、実戦の場で、突然、相手から一般的な型にはまらない、予期していなかった攻撃を受けるかもしれません。これが、「教える英文法」の《問題提起》-ブログにも掲載-に当たります。

 

 この攻撃に対する対処法が《解説》-ブログ非掲載-に当たります。

 

 be second to noneという表現を通じてbe second to を教科書や参考書-道場-で学んだ者が、実戦の場で、突然、

 

  be second only to

 

に出くわすと、

 

  「なんだ?このonlyは・・・only toなのか?それともbe second toにonlyが付いているだけなのか?」

 

となるかもしれません。

 冷静に辞書を引けば

 

  be second only to

  「~を除いて誰にもひけをとらない」

 

と、載っています。

 あとは、次の2点について考えればいいのです。

 

 ⅰ どうしてこのような意味になるのか。

 ⅱ be second to との違いも気になるところです。というのも、「~を除いて誰にもひけをとらない」という意味は、「~に比べて2番目」という意味なので、実質、be second to と同じ事を言っているからです。

なぜ筆者は、be second to ではなくbe second only to を使ったのか。be second to にはない何か別の効果があるのか。このへんのことが気になるわけです。

 

  なぜ?

 

と疑問を抱き、考えることは大切なことです。

 それによって、実戦の場で、相手のいかなる予期しない攻撃にも対処できるようになるからです。

 道場剣法 / 拳法を習得した者が、実戦の場でも臨機応変に対応する力を磨けば「最強の剣法 / 拳法家」になれるでしょう。

 

 なお、

 

  be second only to

  「~を除いて誰にもひけをとらない」

 

については《解説》の説明を載せておきます-このブログの読者で「教える英文法(比較表現)」(旧バージョン)を購入していただいた方は、以下の知識を加えてください。

 

・・・・・・・・・・・・

(略)

 

  He is second to her in the English ability.

  「英語力において、彼は彼女に次いで2番目である」

 

と表現すれば、単に「彼の英語力が彼女に次いで2番目だ」と言っているにすぎません。

 しかし、onlyを付けて

 

  He is second only to her in the English ability.

 

と表現すると、

 

  「彼は英語をよく勉強して頑張った。たださすがに彼女にはかなわなくて2番目ではあるけれど」

 

というニュアンスが生じます。

 

 ⅰ 彼の頑張りを称えているのか

 ⅱ 彼女のすごさを称えているのか

 ⅲ ⅰとⅱの両方なのか

 

は、文脈によります。

 

(略)

・・・・・・・・・・・・

「教える英文法-比較表現」《解説》より

 

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