映画と英文法2
場面は、キンブル医師の家の前です。
キンブルの妻が何者かに殺害され、彼は捜査官に伴われてパトカーの中に入ります。
テレビレポーターの一人がマイクに向かってしゃべっています。
その言葉の中から、表現をピックアップしましょう。
Details are sketchy at this hour.
「現時点では、詳細は不明です」
ポイントは、sketchyという単語です。
sketchは「スケッチ」を思い浮かべれば、わかるでしょう。
「下絵、略図」というイメージがあります。そこから、「概略」という意味が派生的にでます。
OALDの定義を使って、英語で言うと、
rough draft or general outline, without details
となります。
He gave me a sketch of his plans for the trip.
「彼は私に今度の旅行計画の概略を示してくれた」
という使い方をします。
sketchの形容詞がsketchyで、「概略の、おおざっぱな、不完全な」という意味になり、英語で言うと、
done roughly and without details
giving only rough outline
incomplete
imperfect
となります。
「旅行計画は、まだ不完全で、概略しかできていない」と言いたければ、
My plans for the trip are sketchy.
と表現すればいいでしょう。
これなら、ゴテゴテと単語を並べなくてもいいですね。
次回も、同じレポーターの言葉から、文を先行詞にする関係代名詞のasについて述べたいと思います。
映画と英文法ー前回ブログの一部訂正
前回のブログの一部を次の文に訂正
He could have broken his leg.
ⅰ(彼女が足を骨折しなかったことが事実として前提になっている場合)
「彼なら足を骨折しただろう」
→ 主語であるHeが条件の役割をしている仮定法で、「(実際は)彼女なので足を骨折しなかった」と言っている。
映画と英文法ー前々回の追加補足
前々回のブログの補足
前々回で仮定法を取り上げました。
基本的には、仮定法は「事実に反する」文です。
Without your advice, he could have broken his leg.
「あなたのアドバイスがなければ、彼は足を骨折していただろう」
→「(実際は)あなたのアドバイスがあったので、彼は足を骨折しなかった」
(この場合のcouldは可能性を表している)
条件の部分(Without your advice)がなければ、どんな意味になるでしょうか。
He could have broken his leg.
ⅰ(彼女が足を骨折したことが事実として前提になっている場合)
「彼なら足を骨折しなかっただろう」
→ 主語であるHeが条件の役割をしている仮定法で、「(実際は)彼女なので足を骨折してしまった」と言っている。
ⅱ(「彼女」のような別人の存在を前提にせず、あくまで「彼」について語っている場合)
この場合、この表現が発せられた状況によって異なってきます。
ア)He were stupid to go down a steep slope like that. He could have broken his leg.
「あんな急斜面を下るなんて、彼はどうかしているよ。(へたをすれば)足を骨折したかもしれない」
→ いわゆる仮定法過去完了で、(実際には)彼は足を骨折しなかった。
イ)なかなか山を下りて来ない彼を心配して
He could have broken his leg.
と言えば、
「彼は足を骨折したかもしれない」
→ 「彼は足を骨折したかもしれない」と、推量している。
広い意味では、仮定法と言えるでしょう。ただ、事実は完全に逆、と言っているのではなく、「彼は足を骨折したかもしれない」と推量しながらも、「ひょっとしたら、足を骨折していないかもしれない」という気持ちも込めている、という意味で、一種の仮定法なのです。
なお、肯定文-疑問文や否定文ではない文-の場合、
He can have broken his leg.
とは言わないので、注意しましょう。
これら3つのケースのうち、ⅱのイを疑問文にしたのが、逃亡者の中のシナリオで使われた文なのです。
Could he have broken his leg?
「(はたして)彼は足を骨折したのだろうか」
Couldn’t he have broken his leg?
「彼は足を骨折しなかっただろうか」
→ Could he ~?に比べると、「足を骨折したのではないか」という気持ちが強く表れている。
あらためて、
“Couldn’t you have made a mistake?”
「ミスはなかったのだろうか」
「ミスをした可能性はないのか(誤認逮捕だった可能性はないのか)」
と、詰め寄る記者の本意は、
「ミスをしたのではないか」
「(ハリソン・フォード演じる)キンブル医師の逮捕は誤認逮捕だったのではないか」
という気持ちなのです。
映画と英文法ー逃亡者2(前回の補足)
前回の補足
be involved in ~「~に関わっている、~に巻き込まれている」について。
この表現は、「~に関わっている、巻き込まれている」という当事者意識が強く働いています。従って、「渋滞にあう」に使うのは避けたほうが無難かもしれません。
たしかに、一部の辞書には、「渋滞に巻き込まれている」に、be involved in ~を使っている用例があります。自分が渋滞に巻き込まれている本人であることも間違いはありません。
ただ、
be involved in the accident
be involved in a conspiracy
be involved in the scandal
be involved in an incident
のように、「事故、陰謀、スキャンダル、(ちょっとした)事件などに巻き込まれた」という、当事者意識が強いケースと違って、渋滞は当事者意識がさほど強くありません。だから、異論が出るのです。
「渋滞にあう」は
be(get) caught in the traffic
be(get) caught in a traffic jam
get stuck in traffic congestion
など、他の表現を使うほうが無難でしょう。
簡単な英文法
「英文法が不得意だ」という意見をしばしば耳にします。
英語のシャワーを浴びることができる恵まれた環境にいる日本人は一握りでしょう。ある程度英文法を習得しなければ、いずれデッドロックにぶち当たってしまうでしょう(run up against the deadlock)。
そこで、参考書を買って、さあ、英文法を勉強しよう・・・と、参考書を1頁目から読み始めても、無味乾燥な原則の羅列に嫌気がさして途中で挫折するかもしれません。最近は、学習者、特に、初級レベルから中級レベルの学習者を対象にした本もいくつか出版されているようです。僕自身、読んだことがないので特定の本の推奨はできませんが、一部のサイトで紹介されているので、参考になるかもしれません。
一口に英文法といっても、学習者の目的によって異なってきます。
社会人がスピーキングやリスニングに役立てようとするのに、それほど難しい知識は必要ないでしょう。むしろ、一部の知識は邪魔になるかもしれません。「中学英語で十分」という意見も聞きますが、さすがに「十分」は言い過ぎかもしれません-中学で、仮定法を学ぶのなら別ですが、中学英語でどこまで学ぶのかが分からないので、断定はしませんが。
ライティングにしても、それほど難しい知識は使いません。
比較対象の形(品詞など)はそろえる。
「生活費」や「住環境」を表現するのに使われるingの用法
「起きる」を表すget upを「起きている」にする方法
など、英語表現で問題となる英文法や表現方法を、「英語で表現する」ことを通じて学んでいけばいいのです。
リーディングにしても、英字新聞や小説を読むぐらいなら難しい文法力は必要としません。むしろ語彙力が問題となるでしょう。
同じリーディングでも、難しい本を読むのなら、多少難しい文法力が必要です。
自分の力量と目的を考慮に入れて、参考書を選べばいいでしょう。
さて、今回から、従来の『英語の散歩道-英語表現』に加えて、新たなテーマを始めます。
映画の台詞などを通じて、簡単な英文法と英語表現を見ていきたいと思います。
最初に選んだ映画は、ハリソン・フォード主演の『逃亡者』(THE FUGITIVE)です。
例えば、ストーリーの最後のほうで、記者の一人が捜査官に
“Couldn’t you have made a mistake?”
と質問する場面があります。
Couldn’t you have made ~
は、仮定法(仮定法過去完了)と呼ばれる表現方法です。
「可能性」を表すcanを仮定法にしたcouldはよく使われる語です。
例文を見てみましょう。
He could have been wrong.
「彼は間違っていたかもしれない」
= It is possible that he was wrong.
「彼は間違っていた可能性がある」
本来、仮定法は
事実に反している。
あるいは、
事実に反している可能性が高い
ときに使われます。
では、この例文は、事実は逆で、「彼は間違っていなかった」と言っているのかといえば、そうではありません。
「彼は間違ったかも」
と思っているのですが、仮定法couldを使っているので、「ひょっとしたら彼は間違っていなかったかも」という気持ちもわずかながら込められています。
その意味では、断定ではなく推量している、と言えばいいでしょう。
否定文になると、断定する気持ちが少し強くなります。
He couldn’t have been wrong.
「彼が間違っていたはずがない」
= It is not possible that he was wrong.
「彼が間違っていたとは考えにくい」
「彼は間違っていなかった」という気持ちが強くなります。
ただ、仮定法を使っているので、
「彼は間違っていなかった、と確信している」
とまでは言い切れないのです。「ひょっとしたら彼は間違っていたかも」という、文とは逆の気持ちもわずかながらも残しています。そういう意味では、やはり、断定というより推量している、と言ったほうがいいでしょう。
疑問文はどうでしょう。
Could he have been wrong?
「(はたして)彼が間違っていたなんてありうるだろうか」
= Is it possible that he was wrong?
「彼が間違っていた可能性があるだろうか」
肯定文に比べると、疑問文になったぶんだけ、推量する気持ちが強くなっています。
仮定法を使っているので、
「彼は間違っていた」のか、「彼は間違っていなかった」のか、
なかなか決められない気持ちが表れています。
これが否定文になると、「彼は間違っていたのでは」という気持ちが若干強くなります。
Couldn’t he have been wrong?
「彼が間違っていたということはあり得ないだろうか」
= Isn’t it possible that he was wrong?
「彼が間違っていた可能性はないだろうか」
→「ひょっとしたら彼は間違っていたかも」
話を『逃亡者』の台詞に戻します。
捜査官に対し
“Couldn’t you have made a mistake?”
「ミスをした可能性はないのですか(誤認逮捕だった可能性はないのですか)」
と詰め寄る記者の質問には、
「(ハリソン・フォード演じる)キンブル医師の逮捕は誤認逮捕だったのでは」
という気持ちが込められています。
その証拠に、この質問の後、同じ記者が
Did you make a mistake?
「誤認逮捕したのですか?」
と言い直しています。
もう一つ別の例を取り上げましょう。
Was there a one-armed man involved?
「片腕の男が関係しているのですか」
be involved in ~
「~に関係している、関わっている」
は重要な表現です。
A one-armed man was involved in the murder.
「片腕の男が殺人事件に関係していた」
Thereは動詞を誘導するので、主語と動詞の位置が入れ替わります。その結果、was involved in ~のwasとinvolvedが切り離される形になります。
There was a one-armed man involved in the murder.
片腕の男が初めて真犯人として浮かび上がってきたので、記者はthere構文を使って質問しているのです。
この質問の前にも、片腕の男に対する質問を別の記者が捜査官に投げかけているので、正確に言うと、片腕の男の存在が記者たちの間で初めてクローズアップされてきた、と言えばいいでしょう。
次回から、『逃亡者』を最初から見ていきたいと思います。
ただし、時間的制約があるので、次回はいつかは未定です。
では、また。