簡単な英文法

 「英文法が不得意だ」という意見をしばしば耳にします。

 英語のシャワーを浴びることができる恵まれた環境にいる日本人は一握りでしょう。ある程度英文法を習得しなければ、いずれデッドロックにぶち当たってしまうでしょう(run up against the deadlock)。

 そこで、参考書を買って、さあ、英文法を勉強しよう・・・と、参考書を1頁目から読み始めても、無味乾燥な原則の羅列に嫌気がさして途中で挫折するかもしれません。最近は、学習者、特に、初級レベルから中級レベルの学習者を対象にした本もいくつか出版されているようです。僕自身、読んだことがないので特定の本の推奨はできませんが、一部のサイトで紹介されているので、参考になるかもしれません。

 

 一口に英文法といっても、学習者の目的によって異なってきます。

 

 社会人がスピーキングやリスニングに役立てようとするのに、それほど難しい知識は必要ないでしょう。むしろ、一部の知識は邪魔になるかもしれません。「中学英語で十分」という意見も聞きますが、さすがに「十分」は言い過ぎかもしれません-中学で、仮定法を学ぶのなら別ですが、中学英語でどこまで学ぶのかが分からないので、断定はしませんが。

 

 ライティングにしても、それほど難しい知識は使いません。

 比較対象の形(品詞など)はそろえる。

 「生活費」や「住環境」を表現するのに使われるingの用法

 「起きる」を表すget upを「起きている」にする方法

 など、英語表現で問題となる英文法や表現方法を、「英語で表現する」ことを通じて学んでいけばいいのです。

 

 リーディングにしても、英字新聞や小説を読むぐらいなら難しい文法力は必要としません。むしろ語彙力が問題となるでしょう。

 同じリーディングでも、難しい本を読むのなら、多少難しい文法力が必要です。

 

 自分の力量と目的を考慮に入れて、参考書を選べばいいでしょう。

 

 さて、今回から、従来の『英語の散歩道-英語表現』に加えて、新たなテーマを始めます。

 映画の台詞などを通じて、簡単な英文法と英語表現を見ていきたいと思います。

 最初に選んだ映画は、ハリソン・フォード主演の『逃亡者』(THE FUGITIVE)です。

 例えば、ストーリーの最後のほうで、記者の一人が捜査官に

 

 “Couldn’t you have made a mistake?”

 

と質問する場面があります。

 

 Couldn’t you have made ~

 

は、仮定法(仮定法過去完了)と呼ばれる表現方法です。

「可能性」を表すcanを仮定法にしたcouldはよく使われる語です。

 例文を見てみましょう。

 

He could have been wrong.

「彼は間違っていたかもしれない」

= It is possible that he was wrong.

 「彼は間違っていた可能性がある」

 

 本来、仮定法は

 

 事実に反している。

 あるいは、

 事実に反している可能性が高い

 

ときに使われます。

 では、この例文は、事実は逆で、「彼は間違っていなかった」と言っているのかといえば、そうではありません。

 

 「彼は間違ったかも」

 

と思っているのですが、仮定法couldを使っているので、「ひょっとしたら彼は間違っていなかったかも」という気持ちもわずかながら込められています。

その意味では、断定ではなく推量している、と言えばいいでしょう。

 

 否定文になると、断定する気持ちが少し強くなります。

 

He couldn’t have been wrong.

「彼が間違っていたはずがない」

= It is not possible that he was wrong.

 「彼が間違っていたとは考えにくい」

 

 「彼は間違っていなかった」という気持ちが強くなります。

 ただ、仮定法を使っているので、

 

 「彼は間違っていなかった、と確信している」

 

とまでは言い切れないのです。「ひょっとしたら彼は間違っていたかも」という、文とは逆の気持ちもわずかながらも残しています。そういう意味では、やはり、断定というより推量している、と言ったほうがいいでしょう。

 

 疑問文はどうでしょう。

 

Could he have been wrong?

「(はたして)彼が間違っていたなんてありうるだろうか」

= Is it possible that he was wrong?

 「彼が間違っていた可能性があるだろうか」

 

 肯定文に比べると、疑問文になったぶんだけ、推量する気持ちが強くなっています。

 仮定法を使っているので、

 

 「彼は間違っていた」のか、「彼は間違っていなかった」のか、

 

なかなか決められない気持ちが表れています。

 これが否定文になると、「彼は間違っていたのでは」という気持ちが若干強くなります。

 

Couldn’t he have been wrong?

「彼が間違っていたということはあり得ないだろうか」

= Isn’t it possible that he was wrong?

 「彼が間違っていた可能性はないだろうか」

 →「ひょっとしたら彼は間違っていたかも」

 

 話を『逃亡者』の台詞に戻します。

 捜査官に対し

 

 “Couldn’t you have made a mistake?”

 「ミスをした可能性はないのですか(誤認逮捕だった可能性はないのですか)」

 

と詰め寄る記者の質問には、

 

 「(ハリソン・フォード演じる)キンブル医師の逮捕は誤認逮捕だったのでは」

 

という気持ちが込められています。

 その証拠に、この質問の後、同じ記者が

 

 Did you make a mistake?

 「誤認逮捕したのですか?」

 

と言い直しています。

 

 もう一つ別の例を取り上げましょう。

 

 Was there a one-armed man involved?

 「片腕の男が関係しているのですか」

 

 be involved in ~

 「~に関係している、関わっている」

 

は重要な表現です。

 

 A one-armed man was involved in the murder.

 「片腕の男が殺人事件に関係していた」

 

 Thereは動詞を誘導するので、主語と動詞の位置が入れ替わります。その結果、was involved in ~のwasとinvolvedが切り離される形になります。

 

 There was a one-armed man involved in the murder.

 

 片腕の男が初めて真犯人として浮かび上がってきたので、記者はthere構文を使って質問しているのです。

 この質問の前にも、片腕の男に対する質問を別の記者が捜査官に投げかけているので、正確に言うと、片腕の男の存在が記者たちの間で初めてクローズアップされてきた、と言えばいいでしょう。

 

 次回から、『逃亡者』を最初から見ていきたいと思います。

 ただし、時間的制約があるので、次回はいつかは未定です。

 では、また。

 

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