英語の散歩道12ー表現と精度

表現と精度

 

 どの表現の精度が高いか。

 

この質問に対する答えはないかもしれません。

 文に対する好みがあるからです。

 特に、英語のように、母語にする国が複数にまたがっていればなおさらです。

 例えば、米語では使うが英語ではつかわない、or the other way aroundそのあべこべに、英語では使うが米語ではつかわない」.

 同じ国の人間であっても、地域や、育った環境によっても違いが生じるでしょう。時代によっても異なります。

 そういう事情があるうえに、「その表現の意味はわかるが、私は使わない」なんて言われてしまえば

 

  Who cares?

  「かまうものか」

 

という気持ちになります。

 かなり以前のことになるのですが、複数の大学の新聞掲載の解答速報を担当していたことがありました。助っ人英米人がいたこともあれば、いなかったこともあり、どちらのほうが仕事がはかどったのか( make progress with 仕事 )は判断にこまるところではあります。

 いずれにせよ、一つの文に対する英語表現を考えることは、そこから考えが広がり、表現の勉強になります。

 その中から一つだけ例を挙げましょう。

 

「我が家の古いピアノにはなつかしい思い出がいっぱい詰まっている」(京都大学英作問題より一部抜粋)

 

  「我が家の古いピアノ」は

 

  Our family’s old piano

  The old piano in our(my) house

   ・・・ piano of our houseにすると、ピアノが家の一部になってしまいます。

 

で、特に問題はないでしょう。

 問題は、

 

  「ピアノにはなつかしい思い出がいっぱい詰まっている

 

をどう表現するか、です。

 すぐに浮かぶ表現は、

 

  Our family’s old piano is full of happy memories.

 

です。

 happyの代わりにwonderful、sweetを使ってもいいでしょう。

 「なつかしい」は、happyなどを使ったことで十分にその気持ちがこもっているので特に訳出する必要はないでしょう。

 there構文を使って、

 

  There is an old piano full of happy memories in our house.

  「我が家には、なつかしい思い出がいっぱい詰まった古いピアノがある」

 

と表現してもいいでしょう。

 ところが、この

 

  (is) full of

 

という表現に対して、「英語表現として認めるが、しっくりこない」という人もいるのです。

 この場合のfull of ~「~でいっぱいの」は、「物理的なものでいっぱい」ではなく、比喩的な意味で使っています。

 もちろん、full ofは比喩的な意味でもよく使われます。

 

  He is full of himself.

  「あいつの頭の中は自分のことだけだ」

  「あいつは自分のことしか考えていない / 話さない」

 

のように。

 このような昔から馴染みがある表現は問題ないし、

 

  a girl full of vitality ( OALDより )

  「バイタリティにあふれた女の子」

 

あたりは問題ないのでしょうが、

 

  物 is full of memories

 

という表現には抵抗感があるのでしょう。そうなると、その人の語感であり、しかたがないところです。

ちなみに、オーレックス和英辞典にも

 

 an album full of wonderful memories

 「すばらしい思い出の詰まったアルバム」

 

という例文が載っています。

 少なくとも、

 

  Our family’s old piano is packed(stuffed) with the good old days.

 

よりは、

 

  Our family’s old piano is full of happy memories.

 

のほうが、個人的にはずっと好みの表現です。

 

  is packed with ~ ( provide A with Bの仲間の表現 )

 

は、いかにもかたいし、

 

  the good old days

  「古き、よき時代」

 

なんて、まるで「昭和の昔を懐かしんでいる」ようで、自分好みではありません。まだ、

 

  those happy, far-off days

 

のほうが好みです(あくまで、好み、です)。

 full ofを使うことにどうしても抵抗感があるのなら、

 

  Our family’s old piano (always) reminds me(us) of those happy, far-off days.

  Our family’s piano brings happy memories back to me.

Our family’s piano brings back to me (sweet) memories of those happy, far-off days.

 

と表現すればいいでしょう。

 

  remind of

  「人に~を思い出させる」

 

はお馴染みですね。特に、受験生には。

 

  bring O back to

  bring back O to

  「人にOを思い出させる」

 

は、受験生にはremindほど馴染みがないかもしれませんが、有名な表現です。

 bring backは、OALDに〔call to mind、cause to remember〕と定義されて、

 

  Your newsy letter brought back many memories.

 

という例文が載っています。

  CODでも〔call to mind〕と定義されています。

 

  associate A with B

  「ABに結びつけて考える、AからBを連想する」

 

を使えば、

 

  Our family’s old piano is associated with happy memories.

  There is an old piano associate with happy memories in our house.

 

とも表現できます。

 

The popularity of smartphones has given rise to many serious problems associated with their use.

  「スマホが普及するにつれ、その使用に関連して多くの深刻な問題が起こっている」

 

という使い方をします。

 

 主語を「ピアノ」にこだわらなければ、

 

主語を「私(私たち)」にする

 

という手もあります-「人」を主語に置き換えて考えることはよくあることです。

 

  Whenever I look at a piano in our house, I (dearly) remember those happy, faraway days.

  When I look at a piano in our house, I remember those happy, far-off days (dearly).

   Every time I look at a piano in our house, I (dearly) remember those happy, faraway days.

   Each time I look at a piano in our house, I remember those happy, far-off days (dearly).

     happyがあるのでdearlyはなくてもいいでしょう。

 

 最後に、少し詩的に、感傷的に表現して、今日のブログを終えたいと思います。

 

  Our family’s old piano is part of those happy, far-off days.

 

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